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※不妊症治療の継続と労働の両立に、雇用者を含む職場からの理解が必要です。不妊治療連絡カードの発行をご希望であればご相談ください。(外部リンク:厚生労働省・不妊治療と仕事の両立について

不妊相談 (最近は生殖医療と呼びます)

 不妊症は「妊娠を望む健康な男女が避妊せずに性交しているにもかかわらず、 一定期間妊娠しない状態」と定義され、その一定期間は「一年間」が一般的です。カップルの約10組に1組かそれ以上が不妊症で悩んでいると推測され、不妊症カップルの約65%に女性因子を、約50%に男性因子を、約25%に男女それぞれの因子を認めます。不妊症を夫婦の問題として二人で取り組み、お互いを思いやりながら検査や治療に臨む姿勢が重要です。
 すぐにでも子供がほしくても一年間待たなければ不妊症の検査や治療はできないのでしょうか? 妊娠しにくい要因が明確に判明している場合(例:生理不順で基礎体温にばらつきがあって排卵障害が疑わしい)や、妊娠可能な時間や時期が限られる場合(例:ご夫婦ともに高齢で加齢による妊娠率低下を不安に感じている)は、一定期間を待たずに検査や治療に踏み切るのが得策であると考えます。

不妊症検査(治療)を開始する目安

①女性年齢35歳未満・避妊のない性交をしているにもかかわらず一年(以上)妊娠しない

②女性年齢35~39歳・避妊のない性交をしているにもかかわらず半年(以上)妊娠しない

③明確な不妊症のリスク因子がある

女性因子 男性因子
・40歳以上
・性機能障害
(性欲低下・性嫌悪症・性交痛・腟けいれんなど)
月経周期異常(稀発月経・続発性無月経)
・子宮腫瘍(子宮筋腫・子宮腺筋症)を指摘されている
・重症子宮内膜症(の既往)
・骨盤内炎症性疾患の既往
・卵巣手術や卵管手術の既往
・抗がん剤投与や放射線治療の既往
・過去に他のパートナーと不妊歴がある
・40歳以上
・性機能障害
(性欲低下・性嫌悪症・勃起障害・射精障害など)
・成人発症ムンプスの既往
(ムンプス=おたふくかぜ=流行性耳下腺炎)
・精巣手術や陰嚢手術の既往
・抗がん剤投与や放射線治療の既往
・男性型脱毛症(AGA)の治療中である
・日常的に有機溶剤を取り扱っている
・過去に他のパートナーと不妊歴がある

不妊症診療の流れ

1.不妊症カウンセリング(初診) 予約推奨

 不妊症または不妊症の可能性を心配されて当クリニックを初診される場合には、できるだけご夫婦でご来院ください。どのような仕組みで妊娠が成立するのか(妊娠に必要な要素は何か)というガイダンスだけでなく、お二人の職業・生活環境・これまでの経過や今後の検査や治療にかけるそれぞれのお気持ちを共有して診療を進めます。

※カップルのご事情で、パートナーに話せない・まずは女性側だけで考えたい場合でも、ぜひご相談ください。


2.不妊症スクリーニング検査 一部自由診療

 不妊症の6大検査を主軸に、子宮腟部細胞診・頸管粘液クラミジア・トラコマティス検査・貧血検査(血算・フェリチン)・男性ホルモン(アンドロゲン)追加測定(遊離テストステロン)・耐糖能検査(空腹時血糖値・インスリン)・抗ミュラー管ホルモン(AMH)測定・25水酸化ビタミンD測定などを組み合わせた不妊症スクリーニング検査を実施します。

※症状や検査内容によって自由診療と保険診療を使い分けます。

1)基礎体温(BBT)測定
婦人科体温計という特殊な体温計で起床後すぐの体温を測定して基礎体温表にプロットし、直線でつないでグラフ化します。毎回の不妊症の診療は基礎体温表をもとに進められます。

※最近では測定値が内部メモリーに記録されるデジタル婦人科体温計が多いですが、数値だけではわかりにくいため、基礎体温表にグラフ化してご持参ください。ご希望に応じて基礎体温表を差し上げます。

※当クリニックはルナルナ メディコの導入施設です。

2)内分泌学的検査(各種ホルモン値測定)
視床下部・脳下垂体・甲状腺・卵巣から分泌される各種ホルモンのバランスが、妊娠成立に深く関わります。生理周期の各時期や測定条件(時間帯・食後経過時間など)でホルモン値は変化するため、複数回に分けて測定します。

a)月経期(生理2~5日目)(※遺残卵胞の有無を超音波検査で確認して測定します):エストラジオール(E2)、卵胞刺激ホルモン (FSH)、黄体形成ホルモン(LH)

b)黄体中期(基礎体温上昇後4~7日目):エストラジオール(E2)、プロゲステロン(P4)

c)随時:プロラクチン(PRL)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、テストステロン(T)

※必要に応じてホルモン負荷試験(LHRHテスト・TRHテスト)や甲状腺ホルモン・甲状腺自己抗体を測定します。

3)経腟超音波検査
超音波像によって子宮・卵巣・卵管の形態異常の有無を評価し、各生理周期で排卵する卵胞の発育モニタリングに活用します。基礎体温表を参考に、妊娠する可能性の高い時期を推測して必要に応じて排卵促進剤を注射するタイミング法で必須の検査であり、不妊症治療で(生理一周期あたり3回以上)繰り返す基本的な検査です。

4)卵管通過性の確認 要予約

a)卵管通水検査:子宮内にカテーテルを挿入して生理食塩水を注入し、経腟超音波検査を走査します。子宮内部の形態異常(粘膜下筋腫・内膜ポリープや癒着など)や卵管の通過性(両側卵管閉塞や卵管留水症など)を調べます。頸管粘液クラミジア・トラコマティス検査陽性の場合には治癒確認後に実施します。子宮卵管造影検査は一時的に甲状腺機能低下症を生じるリスクがあるため当クリニックは卵管通水検査を推奨します。


b)子宮卵管造影検査:子宮内にカテーテルを挿入して造影剤を注入し、骨盤レントゲン写真を複数回撮影します。子宮内部の形態異常(子宮奇形・粘膜下筋腫・内膜ポリープや癒着など)や卵管の通過性(片側または両側の狭窄・閉塞・卵管留水症や卵管周囲癒着など)を調べます。頸管粘液クラミジア・トラコマティス検査陽性や甲状腺刺激ホルモン異常高値の場合には各治療後に実施します。

子宮卵管造影検査は当クリニックで実施できません。ご希望の場合には実施可能施設にご紹介します。

5)性交後試験(フーナーテスト)・精子不動化抗体測定
性交後試験は、排卵時期の朝に性交して数時間以内に来院し、子宮頸管粘液中の総精子数と総運動率を調べる検査です。性交後試験の偽陰性の可能性(性交後試験は陰性である・精子不動化抗体は陽性である)の可能性を考慮し、当クリニックは一次検査として精子不動化抗体測定を推奨します。

6)一般精液検査
男性因子として、精液量・白血球・pH・精子濃度・運動率・前進運動率・正常形態率・精子自動性指数などを評価します。2日以上禁欲してマスターベーションにより精液を専用容器に採取し、射精後1~2時間以内に当クリニックにお持ちください。精液の性状の変動は大きいため、複数回検査する場合があります。


3.不妊症オプション検査 〔妊活(プレコンセプションケア)検査〕 自由診療

不妊症スクリーニング検査や不妊症治療を受けると同時に、ご妊娠前(ご妊娠中)に対処するべき点(注意・準備・治療を含む)を知るために、以下の各種検査を追加できます。ご希望の場合には担当医にご相談ください。

検査分類 方法と内容 詳細と備考
感染症検査 血液検査 ウィルス検査
※ワクチンあり
麻疹ウィルス抗体 IgG 検査(EIA法)
ムンプスウィルス抗体 IgG 検査(EIA法)
風疹ウィルス抗体検査(HI 抗体価)
水痘・帯状疱疹ウィルス抗体 IgG 検査(EIA法)
ウィルス検査
※ワクチンなし
ヒトパルボウィルス B19 抗体 IgG 検査(EIA法)
サイトメガロウィルス抗体 IgG 検査(EIA法)
原虫検査 トキソプラズマ抗体 IgG 検査(EIA法)
女性内科検査 血液検査 肝機能検査 GOT・GPT・LDH・ALP・γ-GTP・総ビリルビン
腎機能検査 BUN・CRE・尿酸・Na/Cl・K・リン・カルシウム
栄養代謝検査 総コレステロール・HDLコレステロール・LDLコレステロール・中性脂肪(空腹時または随時)・TP・ALB
凝固能検査 プロトロンビン時間・活性化部分トロンボプラスチン時間
栄養素検査 葉酸
尿検査 尿一般検査 糖・蛋白・潜血・ウロビリノーゲン・尿沈渣

4.不妊症治療計画立案

全ての検査結果を総合し、ご夫婦に最も適した治療プランをご提案します。当クリニックでは一般不妊治療のみ 〔漢方療法・タイミング法(排卵誘発剤・排卵促進剤の投与を含む)・副腎皮質ステロイド療法・メトホルミン療法・エストロゲン補充療法・黄体補充療法・黄体賦活療法・配偶者間人工授精など〕 を取り扱っているため、手術や生殖補助医療を要する場合には不妊治療専門施設や総合病院をご紹介します。


※性機能障害を認める場合に、不妊症スクリーニング検査の実施後に以下の治療法をご提案します。

1)セルフシリンジ法:マスターベーションによって採精容器に採取した精液を、液状化(射精後 20~30 分)の確認後にシリンジで吸い取り、ご自分で腟内に注入する方法です。通常の性交と同等の効果が期待されます。当クリニックで採精容器とシリンジをご用意します。卵胞発育モニタリング中に、本法を実施するタイミングを医師が指示します。
2)配偶者間人工授精:マスターベーションによって採精容器に採取した精液を、当クリニックで前処置し、専用器具(ソフト AIH カテーテル)を用いて子宮内に注入する方法です。射精後 30~60 分以内の精液の準備が必要です。

※当クリニックはMIGLIS (メニコン・ライフサイエンス社)を用いるスイムダウン法によって精液を調整する前処置法を採用しています。遠心沈降を要する手法による精液調整をご希望の場合・運動精子濃度が低い場合(1 mLあたり1000万未満)・精液量が少ない場合(1 mL未満)は、不妊専門施設の受診をご提案します。

ステップアップ検査
治療開始から一定周期(3~6周期)以上経過しても妊娠しない場合や、できるだけ早い段階で追加検査を希望される場合に、ステップアップ検査として子宮内フローラ検査(Varinos 社)の実施を検討します。子宮内フローラの異常を認めた場合に、治療前に抗菌薬投与および腸溶性ラクトフェリン服用による子宮内フローラ調整を実施します。

ステップアップ治療
軽度の男性因子不妊を認める場合(軽度の乏精子症・精子無力症・奇形精子症)・精子不動化抗体を含む精子頸管粘液不適合を認める場合・排卵誘発剤(クロミッド)を服用している場合・治療開始から一定周期(3~6周期)以上経過しても妊娠しない場合などに配偶者間人工授精の実施をご提案します。

一般不妊治療(人工授精)の医療費助成のご案内

自由診療費用のご案内

検査・処置項目 税抜き費用 税込み費用
不妊症検査 25水酸化ビタミンD 1500円 1650円
抗ミュラー管ホルモン(AMH) 6000円 6600円
精子不動化抗体(ASA) 7500円 8250円
インスリン 1500円 1650円
子宮内フローラ検査 初回 39500円
2回目以降 28500円

※令和4年4月より前処置(精液調整)を伴う配偶者間人工授精は保険適用です。(年齢・回数に制限なし)


不育症

 不育症は「2回以上の流産・死産・生後一週間以内の新生児死亡を繰り返した状態」で、必ずしもその流産や死産が連続する必要はありません。厚生労働省研究班の報告ではカップルの約16組に1組が不育症で悩んでいると推測され、当クリニックの試算では熊本市で年間200組のカップルが新たに不育症と診断されると考えられます。

※不育症研究に関する外部リンク:Fuiku-Labo

 流産の発生率は高く、全妊娠の約15%は流産であり、妊娠を経験した女性の約40%が1回以上の流産を経験します。反復流産(2回連続流産)の頻度は約4%、習慣流産(3回連続流産)の頻度は約1%です。一方で流産が偶然2回(3回)連続する確率は、15%の累乗で 2.3%(0.3%)であり、実際の発生頻度を下回ります。連続流産する原因として流産の偶然的な繰り返し以外の原因や異常がある、不育症は「流産しやすい要因を有する可能性がある」と推測されます。
 流産の最も多い原因はお子さまの染色体疾患であり、その頻度は約50~70%です。(反復流産の原因の多くがお子さまの染色体疾患の偶発的な連続です。) 女性の加齢は胎児染色体疾患の重要なリスク因子です。配偶子である卵の染色体不分離が生じる可能性が上昇し、受精卵の染色体疾患の発生率が増加するため、40歳(42歳)の女性の流産率は約40%(約50%)に上昇します。

不育症診療の流れ

1.不育症カウンセリング(初診) 要予約

 不育症または不育症の可能性を心配されて当クリニックを初診される場合には、できるだけご夫婦でご来院ください。不育症の原因候補や、原因別の不育症治療法という疾患の病態だけでなく、お二人の職業・生活環境・これまでの経過や今後の検査や治療にかけるそれぞれのお気持ちを共有して診療を進めます。

※カップルのご事情で、パートナーに話せない・まずは女性側だけで考えたい場合でも、ぜひご相談ください。


2.不育症スクリーニング検査

抗リン脂質抗体検査・子宮形態評価・内分泌学的検査・血栓素因検査からなる不育症スクリーニング検査のほか、必要に応じて流死産絨毛・胎児組織染色体検査や夫婦染色体検査の実施を考慮します。
 ※症状や検査内容によって自由診療と保険診療を使い分けます。

1)抗リン脂質抗体検査
ループスアンチコアグラント(希釈ラッセル蛇毒法・リン脂質中和法)・リン脂質抗体パネル〔抗カルジオリピン抗体(IgM・IgG)・抗β2グリコプロテイン1抗体(IgM・IgG)〕・抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(IgM・IgG)・抗フォスファチジルセリン依存性プロトロンビン抗体(IgM・IgG)・抗β2GP1/HLA-DR抗体(ネオ・セルフ抗体)を測定します。抗リン脂質抗体検査は偽陽性を示す場合があり、陽性の場合は十分なご相談の上で12週間以上あけて再検査します。

2)子宮形態評価
子宮奇形は妊娠中期以降の流産原因に多く、泌尿器異常や感音性難聴を合併する場合があります。2D/3D 経腟超音波検査・ソノヒステログラフィ、必要に応じて骨盤MRI・子宮卵管造影検査を実施して総合的に評価します。

3)内分泌代謝検査
黄体期ホルモン(黄体中期エストラジオール・プロゲステロン)・甲状腺系ホルモン(甲状腺刺激ホルモン・末梢甲状腺ホルモン・甲状腺自己抗体)・耐糖能(空腹時血糖値・HbA1c)・25水酸化ビタミンDを評価します。

4)血栓性素因検査
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)・血液凝固第12因子活性・プロテインS(抗原・活性)・プロテインC(抗原・活性)・アンチトロンビンⅢ活性を検査します。

5)流死産絨毛・胎児組織染色体検査
新たに流産や死産を繰り返した場合に妊娠組織の染色体検査を実施し、その検査結果(正常核型・数的異常・構造異常・不均衡型相互転座など)によって夫婦染色体検査などの追加検査の実施を検討します。

6)夫婦染色体検査
夫婦いずれかの均衡型相互転座が予測される場合などで、慎重な遺伝カウンセリングの下で夫婦同時の染色体検査実施を検討します。(ご夫婦それぞれの同意が必要です。)


3.不育症管理計画立案

 全ての検査結果を総合し、ご夫婦に最も適した治療プランをご提案します。原因が判明した場合にはその原因に応じた管理や治療を、原因が不明の場合には治療せずの経過観察の是非を検討します。不育症の50%以上は原因不明であり、それでも2回流産後の妊娠で80%、3回で70%、4回で60%、5回で50%の確率で次回妊娠の継続が可能とされ、不育症の専門外来で検査や治療を経験したご夫婦の85%が出産できると報告されています。もし今までに誰にも相談できずに悩まれてきたのであれば、ぜひ私たちにご相談ください。

《パートナー・ご家族のみなさま・ご友人のみなさまへお願い》
 不育症と診断された女性の40%は何らかの強い「こころのストレス」を抱えています。これまでの悲しい出来事で引き起こされた不安・憂うつ・拒絶・怒り・喪失感や夫婦関係の不和などが次回の妊娠に悪影響を与える可能性があります。彼女の言葉に耳を傾け、そのおつらい気持ちをご理解いただけるようお願い申し上げます。